1998 年 6 月、愛媛県の農家の福岡 正信さんが「『SEED』(作:ラデック・鯨井/画:本庄 敬)に登場する粘土団子は、自分が 1996 年に特許も取得しているのに無断で引用された」として、出版元である集英社に対して、書面で既刊 5 巻の絶版を求めました。
福岡さんは 1913 年 2 月 2 日に生まれ、1947 年に帰農して自然農法を生み出しました。
1988 年には、ラモン・マグサイサイ賞を受賞しています。
ラモン・マグサイサイ賞は、フィリピンのラモン・マグサイサイ元大統領を記念して創設された賞で、毎年アジアで社会貢献した個人や団体に送られ、「アジアのノーベル賞」とも言われます。
日本人では、黒澤 明さんや緒方 貞子さんも受賞しました。
集英社は「SEED」への福岡さんの影響を認め、以下を提案しました。
- 掲載誌「ビジネスジャンプ」に、福岡さんのインタビュー記事を掲載する
- 単行本の巻末に、参考文献として福岡さんの著作を明記する
その後、両者の間でどのような話合いが行われたのか分かりませんが、「SEED」の連載が続いて 10 巻まで単行本が発売されたことからすると、和解したのでしょう。
上記 1 は実現しなかったようですが、集英社「ビジネスジャンプ」1998 年 9 月 1 日号に 1 ページの記事が載りました。
『SEED』と森野 広の「粘土団子」について、読者のみなさまへ
いつも『SEED』をご愛読いただき、ありがとうございます。
連載開始以来、主人公の森野 広は「粘土団子」をいつも携えて世界中を巡っていますが、その「粘土団子」について、創案者である福岡 正信氏よりいろいろとご指摘を受けました。
編集部と原作者ラデック・鯨井は、それらのご指摘は『SEED』をご愛読してくださっているみなさまに、速やかにお伝えすべき大切な事と考えました。
(中略)
平成十年八月十一日
『ビジネスジャンプ』編集部
ラデック・鯨井
上記 2 は、第 6 巻(抗議を受けてから最初に出た単行本)に以下の記述があります。
この作品は、原作者が福岡 正信氏(愛媛県伊予市在住)の著作に接し、また講演等を拝聴して共鳴し、多くの影響を受けました。
特に、主人公森野 広がいつも携えている「粘土団子」は同氏の創案にかかわるものです。
「粘土団子」の実際の作り方をお知りになりたい方は、『<自然>を生きる』(春秋社刊)や『神と自然と人の革命』(私家版)、および「特許広報」(砂漠緑化用多重層にがり粘土団子状種子の製造方法)をご覧になってください。
「粘土団子」は同氏の実践している「自然農法」の中核であり、その思想的営為の「結実」であります。
関心のある方は、左に掲げました著作を読まれることをお勧めします。
[福岡 正信氏の著作]
『自然農法 わら一本の革命』
『無 I 神の革命(宗教編)』
『無 II 神の哲学(哲学編)』
『無 III 自然農法(実践編)』
『自然に還る』
『<自然>を生きる』すべて春秋社刊
『神と自然と人の革命』(私家版)
この文章は、第 6 巻と第 10 巻のみに掲載されています(重版・増刷分未確認)。
「SEED」の前半では粘土団子が活躍し、1997 年の「ビジネスジャンプ」には 5 回登場しますが、1998 年以降は描かれていません。
- 「ふたつの願い」
- 「川がなくなる日(後編)」
- 「紡ぐ森」
- 「織る心」
- 「弾と球」
これらのうち、「弾と球」以外は福岡さんから抗議を受けた時点で、既に単行本が発売されていたため、「弾と球」だけが一時的にお蔵入りになったのでしょう。
その後、福岡さんから許可を得ることができて、第 10 巻に「弾と球」と上記文章が収録されたものと思われます。
さて、「SEED」で特筆すべきなのは「SEED」と勝鹿村です。