「反日マンガの世界」

2007 年 3 月発売の「反日マンガの世界 イデオロギーまみれの怪しい漫画にご用心!」の「雁屋 哲・花咲 アキラ『美味しんぼ』♦グルメマンガを開いてみれば……めくるめく反日思想のフルコース!」(中宮 崇)p.18 に、以下の記述があります。

雁屋 哲の傲慢さを示すエピソードとしてよく知られているのが「『MASTER キートン』絶版事件」である。
『MASTER キートン』とは、『YAWARA!』『20 世紀少年』などのヒット作で有名な人気漫画家・浦沢 直樹の初期の代表作である。
この作品の前半では勝鹿 北星という人物が原作者として名を連ねていた。
その勝鹿が二〇〇四年に他界した後、彼と個人的に親しかった雁屋 哲が、「勝鹿 北星のクレジット表記が小さすぎる」などと訳の分からない因縁をつけたのだ。
これを受けて、出版元である小学館は増刷を差し止めて、実質的に絶版状態にしてしまったのだという。
浦沢 直樹という人気漫画家の代表作が、雁屋 哲という一個人の横暴によって読者の手元に届かないという異常事態が発生しているのだ。

事実誤認を列挙します。

  1. 勝鹿さんが「原作者として名を連ねていた」のは、「前半」ではなく「全編」
  2. 文藝春秋「週刊文春」2005 年 5 月 26 日号によると、「クレジット表記が小さすぎる」ではなく「小さくすることは許せない」と抗議(まだ小さくなっていない)
  3. そもそも、2 の情報源は関係者 C であり、事実か不明
  4. 勝鹿さんの他界と 2 は前後不明(絶版は生存中だから、2 が先の方が自然か)
  5. 「増刷を差し止めて」の主語が、小学館か浦沢さんか断定するには情報不足
  6. 「異常事態」の原因が、雁屋さんか浦沢さんか断定するには情報不足

同書の「日本一の反日マンガ原作者 雁屋 哲とは一体何者なのか!?」(藤倉 善郎)p.122 に、以下の記述があります。

雁屋は、食品メーカーだけではなく、『美味しんぼ』の版元である小学館にも睨みを利かせている。
ファンの間では有名な「『MASTER キートン』絶版問題」だ。
同作は、マンガ家・浦沢 直樹の出世作だが、原作者・勝鹿 北星が途中から作品に関わらなくなったため、浦沢が編集部に申し入れ、クレジット表記の際、勝鹿 北星の名を小さく掲載することになった。
ところが、ここに雁屋がクレームをつけたことで話がこじれてしまう。

その経過を報じた『週刊文春』二〇〇五年五月二十六日号よると、雁屋は勝鹿 北星とともに『ゴルゴ 13』の原作に関わったこともある「盟友」。
そこで「”勝鹿 北星”の名前が小さくなることは断じて許せない」と小学館に対して強く抗議したという。
当の勝鹿はすでに故人だが、ヒットメーカーである雁屋の目が光っていることで、小学館は『MASTER キートン』の単行本の増刷ができず、絶版になってしまっているというのだ。

事実誤認を列挙します。

  1. 勝鹿さんが「途中から作品に関わらなくなった」客観的事実はない
  2. 勝鹿さんのクレジットを「小さく掲載することになった」の情報源は関係者 C であり、事実か不明
  3. 雁屋さんと勝鹿さんが「盟友」なのは電通の先輩後輩だからであり、「ゴルゴ 13」(さいとう・たかを)の原作に関わったのは勝鹿さんのみ
  4. 「絶版になってしまっている」原因が、雁屋さんか浦沢さんか断定するには情報不足
反日マンガの世界

2007 年 10 月、浦沢 直樹さんと長崎 尚志さんの名古屋造形大客員教授就任が発表されました。