ぴあ「Invitation インビテーション」2006 年 5 月号の「長崎 尚志が明かす『マンガ編集者』という生き方」(文:竹熊 健太郎)より。
長崎が浦沢を起用して『パイナップル ARMY』を立ち上げた時のこと。
作品は最初、社内で大不評だった。
「ビッグコミックオリジナル」という雑誌の中では、下品だと思われ浮いていたというのだ。
同誌の創刊編集長でもあった役員が、会議で「俺の雑誌にこんなものを載せるな」と、その場でページを破り捨てたことがある。
長崎は、「オリジナル」での浦沢もここまでか、と覚悟した。
当時の編集長だった林は「浦沢を守る」と擁護してくれたが、役員の力は絶対だった。
そこで長崎は浦沢に「スピリッツでも仕事をしたら」とそれとなく勧めた。
「オリジナル」の連載は、じき打ち切りになると考えたからだ。
「マンガ編集者狂笑録」(長谷 邦夫)にも同様の話が掲載されており、「同誌の創刊編集長でもあった役員」とは小西 湧之助さんだそうです。
小西さんについては、「ビッグコミック創刊物語」(滝田 誠一郎)で詳述されています。
そして、「当時の編集長だった林」とは、林 洋一郎さん(故人)のことです。
編集長になる前には、小学館「少年サンデー」に持込みをした浦沢さんの傍を通ったときに、「少年誌じゃなくて、青年誌向きだ」と言っています。
河出書房新社「KINO キノ」vol.01 の浦沢 直樹 VS 長崎 尚志メガヒット激突対談「浦沢 直樹の売れる理由」(文:大西 祥平)より。
——初連載の『パイナップル ARMY』も長崎さん担当で?
長崎 ええ。
僕が当時「ビッグコミックオリジナル」に異動になって、そのまま連れてきちゃった(笑)。
ああいう、外国を舞台にした漫画って売れないって言われていた時代だったんですよ。
でも、当時の編集長が、当時「ビッグオリジナル」がファミリー向けの路線でものすごく売れ出した雑誌だから、それをぶっ壊すような漫画を作ろうって。
それを浦沢さんに言ったら「分かった」って。
浦沢 テーマは「下品にやろうよ」でしたね。
長崎 その結果、あの漫画を巻頭で載せた時に、上の人が怒って(ページを)破いたという。
浦沢 ああ、あの時は僕の人生終わるかと思いました(笑)。
……でも、「下品」っていうのは、僕は放っとくと大衆向けの作品を作るような作家ではなかったから、その意味での「大衆物を作れ」っていうことなんだと受け取ったんですよ。
エンターテインメントをするからには、それまで自分が守っていた砦みたいなものを壊そう。
そういう意味合いで長崎さんは言ってるんだろうなと。
(中略)
長崎 1 巻が発売の前に増刷になったんですよ。
当時、10 万部で大ヒットだったんですけど、営業部がバクチ感覚で 5 万部刷っちゃったら注文段階で増刷。
そこで初めてこの人は売れるんだなと思いました。
ただ、僕は前にページを破かれた時に、今後良くない展開が起こることも考えて、浦沢さんに「スピリッツともつきあっとけば」って言ってたんですね……それで残念ながら『YAWARA!』が出来てしまった(笑)。
連載初期に、「パイナップル ARMY」(作:工藤 かずや/画:浦沢 直樹)が巻頭に載ったのは 2 回だけなので、役員が立腹したのはこのどちらかです。
その 2 号の目次を並べてみましょう。
- 「ビッグコミックオリジナル」1985 年 9 月 20 日号
- 「パイナップル ARMY」(作:工藤 かずや/画:浦沢 直樹)
- 「三丁目の夕日」(西岸 良平)
- 「ホット DOC」(作:きむら はじめ/画:加藤 唯史)
- 「釣りバカ日誌」(作:やまさき 十三/画:北見 けんいち)
- 「あぶさん」(水島 新司)
- 「やどかり」(篠原 とおる)
- 「浮浪雲」(ジョージ秋山)
- 「人間交差点」(作:矢島 正雄/画:弘兼 憲史)
- 「ヒゲとボイン」(小島 功)
- 「TAIRA ON STAGE」(はら たいら)
- 「赤兵衛」(黒鉄 ヒロシ)
- 「ビッグコミックオリジナル」1985 年 10 月 5 日号
- 「パイナップル ARMY」(作:工藤 かずや/画:浦沢 直樹)
- 「三丁目の夕日」(西岸 良平)
- 「あぶさん」(水島 新司)
- 「釣りバカ日誌」(作:やまさき 十三/画:北見 けんいち)
- 「ホット DOC」(作:きむら はじめ/画:加藤 唯史)
- 「やどかり」(篠原 とおる)
- 「浮浪雲」(ジョージ秋山)
- 「人間交差点」(作:矢島 正雄/画:弘兼 憲史)
- 「刑事バイタル」(三山 のぼる)
- 「ヒゲとボイン」(小島 功)
- 「TAIRA ON STAGE」(はら たいら)
- 「赤兵衛」(黒鉄 ヒロシ)
ページを破るほどかは分かりませんが、いずれの号でも「パイナップル ARMY」が浮いていることだけは間違いありません(笑)。
「テーマは『下品にやろうよ』でしたね」というのも納得です。
ところで、「パイナップル ARMY」と「MASTER キートン」(作:勝鹿 北星/画:浦沢 直樹)について、浦沢 & 長崎さんは「実際に話を作っていたのは、原作者ではなく自分たちだった」と主張しています。
それでは、「MASTER キートン」「パイナップル ARMY」の似ている回を調べてみましょう。